「知らない人が今になって対局室に入ってきましたけど、座ってますね。何か道に迷って入ってきてしまったのでしょうか、先生。対局中のご両人は微動だにせず読みに没頭されております。流石ですね」
「何をおっしゃる。そんなわけないじゃないですか、田辺さん。あれは観戦記者の方です。ちゃんと仕事をされているところです」
「えへへ、これは失礼しました。対局の様子を観て文章にするお仕事ということで、言わば私たち観る将の代表とも呼べるわけですね。今も真剣そのものの表情でペンを握っておられます」
「そういうわけです。関係者しかいませんから」
「えー、この後も、引き続き名人戦中継をお楽しみください」